「季節と文學」

 四季を文學にたとへて見れば、春は抒情詩、夏はドラマ、秋はエツセイ、冬は小説である。
 私は少年の時に春を好み、青年の時に夏を好み、そして今中年になつてから、秋と冬が好きになつて來た。文學の方でも同じやうに、私は抒情詩人から出發して、次第にエツセイストに變つてゐる。もつと年を取つたら、或は小説家になるかもしれない。しかし今の私は、秋が一番身に沁みて好きである。それは春の詩人のやうにロマンチストでもなく、冬の小説家のやうにレアリストでもない。青明に晴れた秋の空には、理知の冴えた思想が瞳を凝らし、人生の意味深い「夢」と「現實」を凝視してゐる。そしてこれが、エツセイといふ文學の本質なのだ。
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萩原朔太郎(1886-1942)
 『阿帯』河出書房1940(昭和15)年10月19日

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