萩原恭次郎 「南葛を唄ふ」

 

南葛を唄ふ


     --大震災の時×××で×られた同村のSに--*1


南葛の夜は燃える、焼土に、
焼土に立つた工場と光るトタン屋根とナマコ板の塀とゴミの流れ寄つてゐる川と、


煤と黒煙とぼいらあとを一つの夜に溶かして燃える。
帝都のただれた夜の灯を焼き返し燃える。


南葛の朝は未だ帝都の眠れるうちに目を醒す。
工場と住宅と道路と川と橋と地平の畑を明々と照す。


逞ましい犠牲者×人はその空に立ちて微笑み語る。
その一人 わが若きS!

 
   ★


村に停車場と工場と道路が一度に設かれ
新らしく町の心臓が動かふとした時
蟻のやうに四方から百姓着のおやぢと女と娘と青年がとりついた。


俺達は流れの勞働者や朝鮮人の男や女や子供と同じ部屋の中に寝ころんで
夜を煙草ふかし乍ら
焼けて叩かれてゐる鐵のやうに默つてゐて語り合つた。


美しい青春の田は目をつぶつてゐる間に堀られ
其所へトロツコのレールが突き通り
まなごの山が出來て行つた。
鐵板の上でセメントが砂と礫にガシガシまぜられ
眞つ黒氣のひつきりなしうなる機關車のドギつい煙が
黒い瓦斯のやうにそこら中におつかぶさつた。


女は工場 男は工事場 或ひは×線工夫
一日一日延びて線路も道も山の方へ頭をもたげて進んだ。
このドサクサの中で青春の肉は赤くびしびしと條ばつてふくれた。


××運動は地下的にのばされたが
鐵橋の上を五人も六人も並んで晴れた夜の星の下を歌を歌ひながら
あの急流の河瀬に和して市の×××につながれた。


目に見えない××がそこへ來た。
半×しの牛のやうに幾人の男や女が田甫や部屋や工事場でうなつて横つた。
仲間は四散した。
お前は村へ手を上げて別れ 南葛へ走つた。


   ★


南葛のドブの中を南葛のヒルのやうな××に血を吸はれたS!
赤い顔して虎のやうな血をもつてゐたS!
お前は南葛の友と南葛の土に埋つた。
そして南葛の晝と夜の鐵をも溶かす火の中に笑ひ乍ら語る。


 (お前は最早俺達だけの友ではない
  お前は世界の友で世界に語る。)


南葛の夜は燃える。音もなく強く、
帝都のただれた夜を焼き返し燃える、
南葛の朝は輝く、
昨夜の灰燼を照し新らしき萬象を黒々と照す。
そして南葛の雨は熱く 埋めてゐた土を次第に流すであらう。
一日 一日と……………………。


萩原恭次郎 1899-1938 )


『詩神』第六巻第五號 1930(昭和5)年5月1日発行