作詩と劍法

  詩の創作に於ける秘訣は、眞劍の斬り合と同じである。卽ち氣合(チャンス)が乗つた時に、眞直(まつすぐ)に敵の方へ突き込んで行く。肝腎なことは、自分を敵の刄の下で、捨身に投げ出してしまふのである。少しでも躊躇したり、自分の防制に氣を取られたり、臆病に身構へたりしてはいけない。比喩を解いて言へば、氣取つたり、恥かしがつたり、特に就中、美學的の意識などを持つてはいけない。一切の構へを捨て、でたらめに突きあたり、目を閉ぢて跳び込むのである。一寸した瞬間にさへも、反省や意識やを浮べるならば、たちまち敵の刄の下に、汝自身の藝術を斬られてしまふ。

 

萩原朔太郎「作詩と劍法」

『絶望の逃走』 第一書房 1935(昭和10)年10月10日發行

 

 

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